一般参加の松本政大(NTT西日本)はフィニッシュ後、両手で顔を覆い、男泣きに泣いた。社会人7年目、20代最後の年に初めてレースで答えを出した。所属チームではキャプテンを務め、人望も厚く、潜在的な実力も高かい。しかし、学生時代も社会人になってからもなぜか成績を残せなかった。後輩たちが伸び、1つ年上の清水は日本を代表する選手として世界に羽ばたいている。結果が全ての勝負の世界、崖っぷちも迫っていた。
レース当日の朝、世界選手権で清水が転倒しながらも7位に入ったと聞く。チームメートの健闘に奮い立った。レースでは流れに乗って力を温存。勝負所で先に抜け出した鈴木博幸を辛抱強く追って逆転。ゴールまでしっかりと走り抜き、大会史上2番目の好タイムで初優勝を飾った。優勝の瞬間、妻と2人の娘、家族の顔が浮かんできた。
91年藤田幸一以来8年ぶりの日本男子の優勝は遅咲きの家族思いの男の涙で飾られた。
常に集団の前でレースを引っ張り、残り10キロでスパートした鈴木博幸(富士通)。「自分を変えたい、可能性を切り開きたい」と言う目的通り、逆転された後もねばり強い走りで2位。印象深い走りで、レースを盛り上げた。
谷口浩美(旭化成)は10位。レースになれば選手に戻ると思っていたが、「選手に遠慮してしまった」という。コーチ、谷口のままではあったが、見る者を惹き付ける魅力に衰えはなかった。
女子優勝の松尾和美(天満屋)は、手を振りながら「イエーイ」と叫び、ゴールした。笑顔が溢れた。
レース中も家族や知人の応援に応え、笑顔の連続だった。初めてのフルマラソンも「専門種目ではない」気楽さもあって楽しんだ。実力者、安部が遅れた30キロ過ぎも、集団から抜け出した35キロ付近でも、他の選手はまったく意識していなかったという。身長164センチの長身から繰り出される伸びやかなストライドで、夏の終わりの札幌の街を生き生き、伸び伸び走り抜けた。
天満屋勢は前年の山口衛里に続いて2年連続、兵庫県出身者は小倉千洋から3年連続で今大会女子を制した。
安部は4位まで落ちたが、終盤気迫の走りで2位、意地を見せた。今回は調整段階で不安があったが、「流石!安部友恵」という一面は十分見せた。
男女そろって日本勢が優勝したのは大会史上初。